
持ち戻し免除の意思表示 |
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被相続人が、相続人に対して生前に贈与したり、遺贈した財産は、特別受益として(相続分の前渡し)と見られて、その財産も、被相続人の相続財産としてみなされます。
住むための家というのは、たとえ登記名義が夫婦の一方になっていたとしても、夫婦がお互いに協力して築いてきたものです。それで、被相続人が、配偶者に居住用不動産を生前贈与又は遺贈した場合、配偶者の貢献に報いるあるいは、老後の生活保障を意図していると考えられます。 被相続人のこうした意図が、遺言書の中に持ち戻し免除として書かれてあればいいのですが、生きている間に配偶者に家を渡したのだからもう安心だろうと思い込んで、遺言書を作らないこともあります。
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| 1 婚姻期間が20年以上 20年という長い期間にわたって婚姻関係にある夫婦の場合、配偶者への居住用不動産の贈与や遺贈とするということは、相手への貢献に対する報い、あるいは老後の保障を図る意図であることが類型的に推認できるためです。 2 居住用の財産が目的であること 居住用財産は、老後の生活保障という観点から重要なものと考えられるからです。住居以外その他の財産を配偶者へ贈与した場合でも、老後の生活のために渡したと言うこともあるかと思いますが、ありとあらゆるものについてこの規定を当てはめると、他の相続人に与える影響が大きすぎるため、居住用不動産に限定しています。
この規定は、「推定」なので、被相続人が排除や撤回の意思を表示していれば、適用はされません。 一度、生駒郡斑鳩町に住んでいるときにその家を配偶者に贈与したものの、大和郡山市小泉町に転居したあとに、小泉町の家も配偶者に贈与したようなときは、最初の斑鳩町の家の贈与については老後の生活保障という目的は失われていると考えられるので、撤回されたとして、推定がくつがえると思われます。 3 遺贈または贈与がなされること。 居住用建物を、贈与した場合及び遺贈した場合に適用されます。 特定財産承継遺言との関係。「居住用の不動産を配偶者に相続させる」旨の遺言は、民法第1014条2項の特定財産承継遺言にあたります。そのため、「遺贈」には当たらないため、直接的に民法第903条4項が適用される訳ではありません。そうすると、遺言書に居住用不動産を配偶者に「相続させる」と記載するか、「遺贈する」と記載するかによって、配偶者が相続する財産が全く変わってしまうことになってしまいます。 特定財産承継遺言が民法に規定される前は、「相続させる旨の遺言」と呼ばれていましたが、最高裁判所判例平成3年4月19日では、相続させる旨の遺言は、遺贈ではなく、一般に遺産分割方法の指定であると解され、・・・・遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるかまたは遺贈と解すべき特段の事情のない限り、遺産分割の方法の指定がなされたと解すべき」としています。 この判例の趣旨を、当てはめるとすると、「配偶者に居住用不動産を相続させる」という遺言がなされたとしても、遺言書の他の記載内容から、配偶者の承継分を減らすことなく住居を受け継がせたいという意図であることが読み取れるのであれば、「遺贈と解すべき特段の事情」があるとして、持ち戻し免除の意思表示の推定規定を類推適用させることが可能な場合もあります。 |